ひし屋呉服店
白生地を
自分色に染める

私らしいおしゃれを探しに

有限会社 ひし屋呉服店
取締役
二代目 山崎 裕治
昭和二十三年生

京都の白生地問屋がルーツの「ひし屋呉服店」。袋町のビル四階に位置する店内は、山崎社長夫妻の柔らかい人柄そのままに、友人宅を訪ねたときのようなアットホームな雰囲気で溢れている。着物まわりのよろずのことを懐深く受け止めてくれる空間は、着物好きにとっても、初心者にとっても、きっと新しい着物の世界を広げてくれるに違いない。

京都呉市満州
商いは常に呉服

初代である父が店を創業したのは昭和二十七年。父は大正三年生まれ、十五歳を過ぎて丁稚奉公に行った先が京都の「竹下利」という白生地問屋でした。現在は暖簾を下ろされていますが、高品質な白生地を扱うとして有名な問屋です。その呉店で店長として働いていた父ですが戦時中に召集令状がかかり満州へ。満州では満州鉄道の物資部呉服部門にいたそうです。もともと呉服の仕事に携わっていたため配属されたようですね。戦争が終わり、満州から引き揚げ、父は呉市に帰ってきました。そのご縁で、当時から付き合いのある呉のお客様が多かったですよ。私は呉で生まれ広島で育ちました。呉市が私の故郷です。

気軽に通える街中で
ほっこり息抜きも

その後広島市内へ出て、父は友人と共同経営で、金座街に呉服屋を構えました。一年後、父一人独立して幟町へ。そこで十年商いを続け、流川に移転。当時の流川には呉服屋さんが多かったんです。今は繁華街となっていますが、昔は「流川銀座商店街」という一つの商店街でした。薬局、洋服屋、文房具店…、たくさんのお店が並び、住居があり、生活の営みがありました。今の流川のイメージとは少し違うと思いますね。二十五年間流川で営業した後、昭和五十五年から袋町へ。一時は、昼は袋町、夜は流川と二店舗で商売をしていた頃もあります。現在店舗を構える袋町のビルを建てたのは昭和六十年。ビルの三階で長く営業し、最近四階の一角へ移転したばかり。街中ですからお客様も立ち寄りやすく、買い物をした帰りに、お茶を飲みに立ち寄られる方もいらっしゃいます。息抜きのようにね。

仲の良い家族と共に
親切で丁寧な仕事を

私が店に入ったのは二十歳の時。十六歳でオートバイの免許をとり、ただ乗るだけでなく、仕立て屋を周るなど店のお手伝いをしていました。高校を出て、簿記などを学ぶため一年間経理学校へ。昭和四十四年の春、正式に「ひし屋」に従業員として入りました。あの頃は、父と母、従業員が二人、そして私の五人体制。昔の呉服店の従業員は基本住み込みです。父や頼れる従業員を見ていたので、店を継ぐのは自然な流れでしたね。結婚後は、妻の睦子と一緒に夫婦で頑張ってきました。もうずっと一緒です。一緒にいないと、成り立たないんです。女性のお客様のことは、女性にしかわからないこともありますから。

人それぞれの個性が出る
オリジナルの色を

父親のルーツが白生地問屋ですので、無地の反物に別誂えをすることを得意としています。真っ白な生地から自分の好きな色に染めましょうというオリジナルスタイルですね。色見本を参考にするのはもちろん、お客様がお持ちである過去の色生地をカットして保存。その色が良いと言われた場合には、小さくカットした生地を問屋さんへ送り、忠実に再現した色に染めてもらいます。先代から言われ現在も心がけているのは、真面目な商品を真面目な価格で売ること。私だけでなく、呉服業界全体で言われることだと思います。そして、売りっぱなしはありえません。アフターフォローもしっかりする。それが専門店の役目ですから。

お客様の幸せが
呉服屋の幸せになる

娘のために振袖を作ってやりたいと来られた、とあるご家族を今でもよく覚えています。着物を選ぶ際、世代が離れた母親の感覚と娘の感覚は違うんですね。古典的な柄を選びたいお母様、最近流行の柄が好みのお嬢様。親子の間で葛藤があるんです。催事などを通して何度も着物を見に来られるのですが、なかなか決まりませんでした。私は、双方から相談を受け、お母様のほうに「着られるのはお嬢さんですから、お嬢さんの意見を尊重したらどうですか?」とアドバイス。結果的にはお嬢さんの好みが通りました。後日、成人式の写真を撮ってこられ見せていただいたのですが、その時お母様から「娘が喜んでいたので良かったわ」と言っていただけました。当店で振袖を選んだ時間は、きっと優しい思い出となるでしょう。ご家族が幸せになってくれること、それが一番なのです。

着物がもっと身近になる
ゆとりある環境作りを

今、上半身、胴回り、下半身と三つのパーツに分かれた三部式の着物があると娘から聞きました。そんな便利なものが出てきたのかと驚いたのですが、どんな形であれ、着物の文化が継承されるのは嬉しいことです。廃るのは悲しいですからね。私たちは街中で人が着物を着ていたら「嬉しいねぇ」と話すんです。ただただ幸せな気持ちになります。今後の当店としましては、大きくいえば、和の文化を絶やさずに受け継いでいくこと。小さく言えば、贔屓にして頂いているお客様の着物ライフを支えていくこと。このふたつを軸に頑張りたいと思っています。昔の人々は、学校参観日に行くのにも着物を着ていました。それだけ日常着だったんですね。着物離れが進んだ原因のひとつは、女性が社会進出し、仕事や子育て家事などで多忙すぎることだと思います。女性の労働環境をもっと楽にして、プライベートを充実させ、ゆっくりと和服を着てもらう。そんな時間を作れるように、日本という国から変えていかなければと思っていますよ。

ひし屋呉服店

〒7300036
広島市中区袋町四の二

電話番号/0822430707
電話番号FAX/0822418791
営業時間/十時から十八時
定休日/不定休