可部寅呉服店
格式高い美と静寂を備え
伝統に磨きぬかれた
和服を今に

株式会社 可部寅呉服店
代表取締役
四代目 可部 典良
昭和二十六年生

繊維の町として有名な広島駅近くの的場町。この地に唯一残る呉服店が「可部寅呉服店」だ。穏やかな可部社長と、にこやかな妻の由紀子さんからこぼれる会話は、微笑ましさいっぱいで羨ましくなるほど。店内には、歴史を感じさせるアンティークな品が飾られており、伝統を重んじる老舗の雰囲気がヒシヒシと。厳かで華麗なる着物の第一歩を踏み出してみよう。

繊維の町
的場町に残る唯一の呉服店

呉服屋としては明治十一年に創業。広島銀行の創立年と同年で、百四十年以上の歴史があります。もともと、江戸時代は刀を扱う刀剣商でした。当時は、屋号である「可部屋」という名で商いをしていたようです。明治時代に廃刀令が出て刀が立ち行かなくなり、呉服店をスタート。呉服屋としては私が四代目。お墓の横に立つ墓誌に刻まれている名を見ますと、八代目になります。戦前、店は猿猴橋町にありました。呉専会の「かずもとや」さんとは、近い距離に店を構えていました。戦後に、現在の的場町へ移転。代々の襲名が可部寅蔵。そこから現在の店名が名づけられました。的場町は、繊維問屋が集中している繊維街として知られています。最盛期には二百~三百軒の問屋さんがありました。地方の小売りの方が、広島駅から近い的場町で商品を仕入れるんですね。現在は、高層ビルやマンションが増え、町は様変わりしてしまいましたが、現在も広島唯一のセンイシティとして機能しています。今、問屋さんは十軒ほど。小売りの呉服店で残っているのは、当店だけです。

時代が流れる変化の日々を
夫婦で歩む

小さい頃から和服に囲まれて育ちました。東京の大学を卒業して、日本専売公社(現:JT)に就職。それから二年ほど経った頃、親父から「帰ってこい」という話がありました。幼少から馴染んでいた家業です。従業員は多い時で十人以上。住み込みで働いていた人たちに幼い頃は遊んでもらい、みな家族のような雰囲気。そんな環境で過ごしましたので、流れに乗るよう跡を継ぎました。妻の由紀子とは昭和五十五年に結婚。彼女にはいつも助けられています。私とはタイプが違うんです。私はどちらかというと口下手。聞くのは得意なほうですが、喋るのはあまり…(笑)。逆に彼女はとても社交的です。夫婦で、お互いに足りない部分を補い合えているなと思います。

絵画で培ったセンスを
着物に生かす

先代の母は店頭には出ていませんでした。裏で家仕事をし、従業員の人たちにご飯を食べさせることが中心。お客さんの前に出ることはほとんどなかったので、私もお店には出ないでいいと聞いていたのですが…。時代の移り変わりもあり、ある時、「そろそろ手伝いに出てみたら?」と声をかけられました。しかし商売について、最初はわからないことばかり。少しずつ知識を身に付けていきました。絵を描くことを約四十年間趣味としているのですが、自身の中に染みついた色彩感覚は、呉服の世界に身を置く中で、少しは役に立っているかなと思います。

古典的な
和の文化を大切に

当店では、落ち着いた色合いのもの、日本の四季、伝統の柄を染めているものを厳選して仕入れています。古典的な風合いが好きなんです。プライベートでも、和が感じられるものを好んでいます。祖父は骨董が大好きでして、昔は段原にあった骨董街へ毎日のように出かけていました。その影響もあり、私も古物商になろうかと頭をよぎっていた時代もあります。店内の箪笥は祖母のもの、お皿は祖父が買い求めたものです。明治初めのものですね。日本人が大切にしてきた和の文化に触れ、上品な身のこなし方や和の心を身につければ、日々をより心豊かに生きられるのではと考えています。

嘘のない誠実な対応で
愛せる着物を提案

私のモットーは誠心誠意。「信用、安心できる」と言ってくださる方が多いのは嬉しいですね。先代からも「良い品をより安く提供できる店にしろ」と言われ続けてきました。当店のお客様には、三代以上のお付き合いの方がたくさんいらっしゃいます。「おばあちゃんがよくここで買い物していたので私も来てみました」と言われる方や、「自分の娘に着せてあげたいから仕立て替えをしてほしい」と昔のたとう紙と共に着物をもって来られる方も。代々大切にしておられる光景を間近にすると感激します。着物はサイズが違っても、時代が違っても着られます。逆にそういう楽しみを見つけていただきたい。現代の若い方たちは、身長も高く腕が長く、昔の方と体形が違いますが、お母様の着物でサイズが合わなくても、仕立て直せば大丈夫。長く使える、これも着物の魅力ですね。

和服を着ることは
日本という国を着るということ

「和服を着る=日本を着る」そう考えています。絹が主流の着物ですが、オールシルクを纏うというのは、世界的に見ても注目すべき点です。長襦袢、着物、帯、小物…、基本シルクですから。それに、普通のドレスやスーツを着てもぴったりはまらないけれど、着物ならしっくりくる方が多いと思います。日本人の体形は西洋人とは基本的に違いますからね。きっかけは浴衣や、リサイクルの着物でもいいんです。和服への入口に立ち、親しみをもってもらいたい。その後、自分のために仕立てたものを着てみたいという思いに繋がっていけたら嬉しいですね。大島紬や、京都の格式高い染め物を着てもらえれば尚更です。着物は日本の文化ですから、どのような形でも残ってほしいと願っています。

可部寅呉服店

〒7320824
広島市南区的場町一の七の二十

電話番号/0822622261
FAX/0822632296
営業時間/九時から十八時
定休日/水曜